らもはだ日記

2002年1月12日。

年明けすぐに行われたトークイベント「らもはだ」第二回目のゲストが、大槻ケンヂ。自らもロフトプラスワンで「のほほん学校」というイベントを主宰している彼の人気は絶大で、前売りだけで入場券がソールドアウトしてしまったほどであった。
筋肉少女帯のボーカリストである大槻ケンヂ、通称オーケンとオレとは同い年。
以前、『筋肉少女帯3年殺し』というセルビデオの構成をやったことがあり面識はあった。ワハハ本舗の梅垣義明さんがふんどし姿で神輿を担いでただひたすら町を練り歩く映像の合間に、筋少の楽曲のプロモーションビデオが流れる。今考えると相当にシュールな内容のビデオだった。
結局、諸般の事情で実現はしなかったのだが、打ち合わせの席でオーケンと2人で「志茂田景樹に越中ふんどしで神輿を担いでもらおう」と盛り上がった記憶がある。同世代のサブカル好きとして馬が合ったのだ。

今回から、らもさんのマネージャーのアトムさんが司会役に。おかげで、トーク進行がとてもスムーズになった。
大の中島らもフリークのオーケンを迎えて、オープニングから盛り上がったのはおクスリ関係のヤバい話。
らもさんが以前、ロフトプラスワンで初めてトークライブをやった時、最前列の客に咳止めブロンを渡されてやおら一気飲みしていた決定的瞬間を、客で来ていたオーケンは目撃していたらしい。
「らもさんって、そういう挑発受けると意地になるタイプなんですかね?」
オーケンからの質問に、らもさん。
「あんなもん、いきなり出されたら飲むしかないじゃない。けど、人前で飲んでも効かないね。やっぱ緊張するからかな」

そこから一気に出演者のおクスリ体験話に。
「トリップするためには、結局、リーダーがいるんやね。バッドトリップしないようにいい方向にリードするという。で、マジックマッシュルームをリーダーなしで食べた場合、どうなるのかを司会のアトム君に発表してもらおう」
急にらもさんがふって、アトムさんにまで飛び火。
「……実はずいぶん前にまだマジックマッシュルームが合法の時に、らもさんと一緒に食べたことあるんですよ」
お前も話すんかい!
「食べてから、事務所の近くの小人のマスターのいるスナックに行ったらバッドトリップして大変でした」
らも&アトムのバッドトリップ話。

するとオーケンも負けてはいない。
日本ではウバタマの名前で売られている観葉植物のペヨーテをジューサーミキサーで砕いて飲んで、気持ち悪くなってゲロを吐いたエピソードで応戦。
ブロン以外でラリったことのないオレにとって、このトーク展開は不利だ。全然、話に入っていけない。
オーケン目当てで来た若い女性中心の客席も引き気味。

そこで、オーケンのゲロ話から、むちゃくちゃだった80年代パンクのパフォーマンスの話題へと強引に持っていった。
ステージでゲロはするわウンコは撒くわのキング・オブ・ノイズこと非常階段。最前列の客にフェラチオさせたスターリンの遠藤ミチロウ。ニトログリセリンを持ち込んでライブハウスごと爆破しようとしたハナタラシ。
ここらへんの過激パフォーマンスのバンドの話なら、詳しいのでいくらでもできる。
80年代のインディーズブームの最前線で生きてきたオーケンも、あのNHK「プロジェクトX」のナレーションで有名な俳優のとっておきのエピソードを。
「当時、ばちかぶりってバンドやってた田口トモロヲさんも、渋谷のライブハウス、ラ・ママのステージでゲロを吐いてお店の人に怒られたんですよ。なのに、次にラ・ママに出た時に『前回ゲロを吐いて怒られたから、今回はウンコをします』ってウンコしたんですね」
とにかく狂った時代だった。

おクスリ話でも引いていた客席は、このゲロとウンコ話でさらにドン引き状態に。
そして、オーケンの青春時代の話へ。
オーケンは80年代のパンクなバンド群に影響されて、高校を卒業すると同時に「もう子供じゃない」とモヒカンにしたのだという。
オレも同じであった。高校時代からやってる自分のバンドの卒業公演を開催するために地元の公民館をレンタル(オレの田舎にライブハウスなんて高尚なものは無かった)
日本の元祖パンクバンド、アナーキーのボーカリスト仲野茂に影響されて「卒業ライブだし気合いを入れなければ」と、家のスキカルでモヒカンにしたのであった。
「高砂市初のモヒカン野郎だ!」
上がるテンション。

しかし、せっかくモヒカンにして臨んだライブの客はなんと3人。1人は後輩のコイケ、あと2人はギターのイソベのおかんと弟であった。
さらに。家に帰って、そのモヒカン頭を見たうちのおかんが「あなたの大学入学の時のスーツ姿だけが楽しみで今まで生きてきたのに~」と泣き崩れるオマケ付き。人間が本当にまるでドラマのように膝から崩れ落ちるのを見たのはこれが初めてである。今考えてもおふくろには悪いことをしたと反省している。
そんな2人のモヒカン話に、らもさんも。
「だいぶ前だけどさ、大阪の淀屋橋ってところで、三つ揃えを着てスーツ姿でモヒカンをおっ立てたサラリーマンが自転車に乗ってるのを見たことがある。こいつは苦労すると思ったね」
負けず嫌いならもさん、自分はモヒカン刈りにしたことがないもんだから、大阪で目撃したパンクなサラリーマンの話で返した。

おクスリとモヒカン頭の話で盛り上がった二回目の「らもはだ」。
その日は、イベントが終わった後の打ち上げの席でもさっきのステージでは言えなかった「日本のロック業界のヤバい裏話」が続いた。らもさんが大好きなプロレス風に言えば場外乱闘。
とても書けないような内田裕也さんのエピソードを披露するオーケン。それを聞いて爆笑する一同。
さんざん笑って、そろそろ宴会もお開きというタイミング。
今しかない。
今日はらもさんにひとつ言っておかねばならないことがあった。

(つづく)