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「こいつ、シャブ中や」
2001年11月10日。
2ヶ月前にあったアメリカ同時多発テロ事件で世間がまだまだザワついていた時期。
歌舞伎町ロフトプラスワンで「らもはだ」第一回目が始まった。
歌舞伎町のいかがわしい風俗店満載の雑居ビル。
地下2階への怪しい階段を降りていくと、サブカルを煮しめたような魔境が広がっている。マイクの並んだトークステージを見上げる形で、キャパ100人ほどの椅子席。ここが本日からスタートする「らもはだ」の舞台だ。
楽屋入りすると、ダ・ヴィンチ誌のキシモト嬢がいた。今回のトークイベントは、ダ・ヴィンチ誌のホームページでWEB連載された後、本になるのだ。
キシモト嬢と進行の打ち合わせをしていると、らもさんが登場。
見ると、カバン持ちにメガネで長身の若きイケメンを連れている。
「お久しぶりです、アキホです」
なんと!らもさんの息子のアキホ君ではないか。今は、らもさんの付き人的にアトムさんの下でマネージャー見習いをしているという。会うのは15年ぶりくらいか。
そして、本日のゲスト、ガンジー石原も大阪からやって来た。
20代の頃、毎日のように顔をあわせていたメンツが続々と楽屋に集結してくる。
なんだか同窓会みたいだな。
「鮫肌、頼むわ」
本番直前、らもさんからトークの進行を任された。
「わかりました」
専門学校の放送作家コースのゲスト講師として、過去何回もこのくらいの規模の人間たちの前で話したことがあったので「オレは大丈夫」という妙な自信があった。
本番スタート。
まずはらもさんとオレと2人でステージへ。軽くオープニングトークをかました後、ゲストのガンジー石原を呼びこむ段取りだった。
しかし。
目の前にぎっしりと超満員の客。立ち見まで出ている。
「今からコイツラはどんな面白い話を喋ってくれるのだ」
客席から一斉に注がれる期待度マックスの目線に本当に頭の中が真っ白になった。
「あ」
何も言葉が出てこない。
一瞬でパニクった。
あ、こいつ緊張してしもてアカンわ。
すぐに察したらもさんが、サッサとゲストのガンジー石原を呼び込む。
「・・・え~っ、マイナーをマイナーで煮尽くしたような編集者。なぜお前はそんなマイナーなほうばっかり行くのか!?ガンジー石原くんです。どうぞ!」
助かった。
背中に冷や汗がタラリ。
一応手元に、今回のトークの進行メモを用意していた。
緊張しながらも、進行メモを元にとにかく司会進行を始めた。
オレの知ってるガンジー石原の絶対面白いすべらない話は「シャブ中事件」と「じゃがたら事件」の2つ。
まずは「シャブ中事件」。
ガンジー石原がいかに危ない人を引き寄せるオーラを持っているかというエピソード。
この人と歩いているとなぜかヤバい人が寄ってくる。2人で御堂筋線に乗った時、明らかに様子のおかしいオッサンが乗り込んできた。ガラガラの車内。他の席に座ればいいのに、2人の真正面の席に座る。
カクカクカクカクカク。
全身が小刻みに震えている。
座っていると思ったら、ケツがシートから数センチ浮いていた。
完全にいっぱいいっぱいの狂気の目。
はあはあはあはあ、息遣いも荒い。
「こいつ、シャブ中や!」
見た瞬間にそう思った。
それから、シャブ中のオッサンが次の駅で降りるまで、お互い必死でアイコンタクト。
関心のある素振りを見せた途端に「どこ見とんじゃ、ワレ!」と突っかかってきてもおかしくない状況だ。
「今日の昼に何食べる?」
「オムライスがええかなあ」
全然関係のない話をするフリをしながら、アイコンタクトしっぱなし。
実際はひと駅分、5分もなかったと思うが、それこそ一生分くらい2人でアイコンタクトしあった話。
すると本人からさらに強力なエピソードが。
「大阪の飛田で飲んでてね、まあ言うたらガラの悪いとこですわ。帰ろ思うたら、駅前にとめてあった自転車がパクられて無いんですわ。で、真新しい自転車がカギもかけずに放置してあるのを見つけて、こりゃええ! とハンドル持ってパクろうとしたら」
なんと、その自転車がとめてあったのはヤクザの事務所の前。ガンジーさんが自転車を盗もうとした瞬間は全部、事務所の監視カメラに映しだされていた。
「おまえ、何しよんじゃ!ここをヤクザの事務所と知っとってそんな悪さしよんのんかい」
中から出てきた若いもんに拉致られて、事務所内でタコ殴りに。
「頭を受話器で殴られて、受話器がバキーッって折れてね」
弁償することになったのだが、所持金が二千円ちょっと。「こんなはした金いるかあ!」とさらにボッコボコにされて血まみれになったんだと。
この話に客も大爆笑。ガンジー石原がどれだけ因果者の星の元に生まれた男かようやく理解できてきたようだ。