らもはだ日記

トークイベント「らもはだ」は、らもさんの古くからの友人を迎えて、さらにカオスを深めていった。

2002年5月11日。

「らもはだ」第四回。ざすが前回、急病で一回休んだだけのことはある。休養充分。らもさん、ここ何回か会った中で一番体調が良さそう。去年の夏、マネージャーのアトムさんに脇を抱えられ、ヨボヨボと歩いていた最悪の状態がウソのようだ。
楽屋で、らもさん、アトムさん、付き人のアキホ君、ダ・ヴィンチ誌のキシモト嬢も交えてバカ話をしていると、外から何やらテレビで聞き覚えのあるダミ声が。
「こんばんは!らも、おるかア」
物凄い機嫌の悪そうな鬼の形相で入ってきたのが、今夜のゲスト、井筒和幸監督。あの傑作「ガキ帝国」「パッチギ!」を撮った日本映画界の大巨匠だ。

風邪をひいていたのでそんな険しい表情だったらしいのだが、テレビでの歯に衣着せぬコメンテーターの時と一緒の激怒りテンションで楽屋入りするなりガンガンにまくしたてる。目につくモノすべてにツッコミまくり。
「なんやこの辛気臭いラベルのデザイン。毒薬ちゃうかア。飲んだモン殺す気ィかボケッ!」
体調が悪いと持参した風邪薬にまで突っ込む。
震え上がる我々。
しかし、15年来の古い付き合いというらもさんは、そんな井筒節に慣れっこなのか平気な顔。
「今日はね、テレビで言えへんことを全部言うよ!」
いきなり高らかに宣言する井筒監督。


そして迎えた本番のステージ。
らもさんの呼び込みで生井筒監督が登場した瞬間、明らかに客席に緊張が走るのがトーク席からもわかった。
楽屋での宣言通り。いざステージに上がったら、2時間半ノンストップで、神をも畏れぬ放送禁止トークが炸裂!
この「らもはだ」のトークをまとめて後に出版された「イッツ・オンリー・ア・トークショー」にも収録不可能だったおクスリ関係のヤバい話が出るわ出るわ、てんこ盛り!
「ポルノ撮ってた時、スタッフ全員4日間くらい徹夜や。で、疲れてくると撮影部の助手がアレを持ってるのよ。やると3、4時間はシャキーンとするわけ。覚醒して、朝までシャキーン!」
もう時効とはいえ、凄いカミングアウト。

さらに70年代に大阪の難波でプータローをしていた時。
「らもさんと共通の知り合いのメキシコ人の娘がおってね。『これ、すごく効くのよ』って紅茶を作ってくれんねん。飲んだら家が崩れてきてね。壁がガンガン落ちてくる。周りの人がみんなドクロに見えてきて。『殺される~』って街中を逃げまわって。気がついたら、精神病院におった。『オレはまともやから出せ』って喚いたら、看護婦が『まともな人はそういう風に言わないの』って。大変やったわ」
どんな壮絶なラリり方なのか。
らもさんと共通の知人っていうメキシコ人の娘っていったい誰なんだ?気になる!

映画の打ち上げで酔っ払って大暴れした逸話も、暴れ方が半端ない。
「気ィついたら四谷署にいたの。もう何十本も交通標識とか倒してやな。器物破損、東京都条例違反、道路交通法違反、それから集団暴行罪。取り調べでホンマにカツ丼食うたったわ!」
ことテレビの世界には、いつもは紳士なのにテレビカメラがまわりだすや否や「ブチ切れ」キャラな自分を演じる「職業的ブチ切れ人」が多い。素はあくまでもノーマルな常識人のくせに。
しかーし!監督はその真逆。普段から、例えるなら豚骨スープくらいドロドロにキレまくっているのをテレビ出演時には視聴者のお口に合うように、あれでもショウユ味に薄めて出しているのが今回のトークでよくわかった。
そんな監督の特濃豚骨スープのようなテレビでは絶対に話せないエピソードを聞いて、どうリアクションしていいのやら、お客さんも明らかにとまどっている。
これぞほんまもんのアウトロートーク!
こういう凄い人の話を聞くと、今までいかに自分が平々凡々にスポイルされた安全な人生を送ってきたかが自覚できる。

さんざん怒り倒してから監督、おもむろに。  
「で、鮫肌くんはそんな経験ないの?」
監督、そんな特殊な経験、普通はないです。
「それやったら、ボクもあるよ」
負けず嫌いならもさんが返す。
「オランダでマリファナをケツから煙が出るくらいに吸いたおしたったんや。で、日本の空港で麻薬犬に引っかかってね。スリスリスリスリ寄ってきて、それがまた可愛くてね」
いやいや、らもさん。麻薬犬を可愛いとか頬ずりしてる場合じゃないですから!
さらに監督に輪をかけて危ないおクスリ話を始めてしまい、客がサーーーーーッとドン引きしていくのであった。


「今出てる番組の最終回で『オメコーッ』って言うたろ思てんねん」
規制の多すぎる現在のテレビメディアへの井筒流の決別宣言で終了。
「らもはだ」史上、一番アブナイ話が炸裂した回だったかもしれない。

打ち上げはいつもの、犬鍋を食わす怪しい中華屋「上海小吃」。
そこでも監督はまだまだ吠えまくる。
「大阪は最近、しょーもないクラブばっかりでな。オモロイ店が全然あらへん。あんな集団でトランスして踊ってどないすんねん、クソが!トランス、アホですよ、アレ!」
当時全盛だったトランスミュージックにまで牙を剥く。
打ち上げでも怒ってばかり。
次の日の朝、テレビをつけたら、TBS「サンデー・ジャポン」に井筒監督が出ていて、
今度はニュースに向かって吠えまくっていた。
いつまで怒ってますねん、井筒監督!

(つづく)