らもはだ日記

2001年11月16日。

トークイベント「らもはだ」第七回。ゲストは、女優の本上まなみさん。これまでのサブカル系の濃ゆいゲストと比べてなんと爽やかな。彼女の大ファンのらもさんのリクエストだという。

夕方、歌舞伎町にある会場へ向かって歩いていたら、携帯電話にロフトプラスワンの「らもはだ」担当プロデューサー、サイトウさんから着信。
「何?」
「鮫肌さん、今日のゲストは知ってますよね」
「本上まなみさんでしょ」
「タンバリン持ってきてます?」
「タンバリン?」
「先に楽屋いりしているらもさんが、他のスタッフと鮫肌さんがタンバリンを持ってくるか来ないかを賭けてます。本上まなみさんが来るのに何も楽器を持ってこない、あいつはそういうヤツや! って、来てもないのに怒ってます」

らもさんは、おもちゃのピアノをはじめ楽器をいっぱい楽屋に持ち込んでいるという。
え、ミュージシャンのゲストでもないのに、なんで楽器を?何をやらかすつもりなんだ、あのオッサン。 
もし持って来ないと怒り爆発しそうな勢いなんだと。
これも躁転の証か。このところ、鬱から躁に転じてハイテンション、やたらめったらオレに対して攻撃的ならもさんが思い出された。

慌ててドンキホーテに飛び込んで、980円の安いタンバリンを買った。
「あ、持ってきよった」
楽屋入りしてすぐに、さっき買ったばかりのタンバリンをさも家から持ってきたかのようにこれ見よがしにカバンから取り出す
サイトウさんに目で「ありがとう」とアイコンタクトしながら。
らもさん、それを見て。
「みんなで、絶対に気の利かん鮫肌のことやから何も持って来ィひんって賭けとったんや。なんや、持ってきたんか」
怒る気満々だったようだ。
ホッ、なんとか怒られずにすんだ。
「今日は、なんでタンバリンがいるんですか?」
「あとでわかる!」


それからの楽屋のらもさん。
本上まなみさんが楽屋入りするまで落ち着かないこと、落ち着かないこと。あっち行ったりこっち行ったり、いつもはゲストが来るまで悠然と構えているのにウロウロソワソワ。
ダ・ヴィンチ誌のキシモト嬢に聞いたところ、もともと本上まなみさんがらもさんの小説の大ファン。それを伝え聞いて文庫本「中島らもの特選明るい悩み相談室」のあとがきをお願いして以来のつきあい。らもさんのほうもファンなのだという。「次のゲスト、誰にしますか?」と聞いたら出たのが彼女の名前。相思相愛らしい。


「こんにちは」
中島らもがウロウロソワソワと落ち着かなかった楽屋に本上まなみさんが登場。
いや、まさに掃き溜めに鶴。サブカルの魔境に舞い降りた天使。女優さんオーラ全開で楽屋入り。
「お綺麗ですね」
会うなり、司会のアトムさんが、女優本人が他人に言われて困るNGワードをつい漏らしてしまったほどだ。
楽屋にいた男連中全員が、マンガみたいに頬を赤らめてホア~ン。
「今日はよろしくね」
楽屋の真ん中にドッカと座って努めて冷静に振舞おうとする中島らもが声をかける。
さっきまでのソワソワっぷりを、本上まなみに見せてやりたかったよ。
「あ、らもさん、よろしくお願いします。私、ホントにらもさんの大ファンなんですよ」
やっぱり可愛い!

「らもはだ」初の女優ゲストを迎えて、まるで中学生のようにドキドキモードな中島らも、オレ、司会のアトムさんに、彼女の側についていたマネージャーが冷たく事務的に言い放つ。
「すいません。本日、本上はスケジュールの都合で頭1時間でイベントを退席することになります。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
「ごめんなさい」
マネージャーの横でペコリと頭を下げて謝る様子がまた可愛い。
「聞いてますから。全然かまへんよ。忙しいんやね」
なんとも優しい口調の中島らも。
タンバリンのことでオレを詰めようとしていた時とは大違いだ。


そして始まった本番のトークステージ。
いつもは、らもさん、司会のアトムさん、オレの3人で15分ほどオープニングに近況報告を兼ねたアイドリングトークをして客席を温めてからゲストをお迎えするのだが、今回は時間が1時間しかないので省略。
ステージに上がった本上さんに50歳をとうに過ぎたらもオヤジが、照れながらまずひと言。
「ほんじょって呼んでいい?」
それを受けて本上さんも。
「… … … はい?」
どんなラブラブトークだよ!

さらに開始早々、おもむろに持参した本上まなみ関連グッズを取り出すらもさん。
「本も写真集も全部持ってるから」
このオッサン、ほんまにただのファンやんけ!
受けて、本上さんも。
「文庫本のあとがきを書いた時、お礼の手紙をらもさんからいただいて。もう舞い上がって喜んでしまって」
え、そんなことまでしてたの?
「お礼状なんて他の人に出したこと無いでしょう、らもさん!」
普段はらもさんのマネージャーをしているアトムさんが呆れて突っ込む。アトムさんも知らない間に勝手にやっていたようだ。

ここで、らもさんがボソリと。
「おれに興味があるの?」
タメてタメて、本上さんがこう答える。
「………すごく……好きです」
「……おれも」
どの口が言うとるねん!
サブカルを煮しめたようなトークイベント「らもはだ」がこんなラブラブモードになるなんて。

本上まなみさんのニックネームである「ほんじょ」を口にする時も照れているのかどこかぎこちない中島らも。
挙句の果てには。
「ほんじょは、一番最初、キャンペーンガールだったの?」
え、そこから!?
まるで普通のテレビのトーク番組のような本人のヒストリー話からスタート。いつもは危ないおクスリ話あたりから始まる「らもはだ」が一気に「おしゃれイズム」化!
高校一年生の時に今の事務所にスカウトされ、ユニチカのキャンペーンガールのオーディションに合格。そこを足がかりに女優としてテレビドラマ、映画とステップアップしてきた彼女の歴史が紐解かれていく「らもはだ」にはあるまじきトーク展開。

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