らもはだ日記

中島らもとロック。
昔から、中島らもはことロックに関することには本気度が違う。いつもは笑い話で済ますようなこともロックが絡むとややこしい話になる。
らもさんに面と向かって怒られた記憶は数少ないが、そのほとんどがロックに関してであった。

らもさんの家に居候状態だった時に一度こんなことがあった。
ド深夜、らも家のリビングにて。
ストーンズのアルバムをBGMに、2人で酔っ払ってロックの話をしているとなぜか「ギターの弦をコンサートの前に張り替えるか替えないか」って議論になった。
オレはギターも弾けないくせに「そりゃ大事なコンサートの前には弦をまっさらに張り替えるのが当たり前でしょう」と主張した。
「そんないちいち新品に張り替えたりせえへんよ」と、らもさん。そっちのほうがロック業界的には常識なのだが「いや、張り替えますって」と言い返すオレ。
酔いも手伝ってか意地になってしまっていた。
険悪なムードが流れる。

横で2人の話を聞いていた奥さんのミーさんが割って入る。
「ミーも、張り替えたほうが良いと思うよ。
だって、どうせなら新しいほうが気持ち良いでしょ?」
味方ができて、オレも強気になる。
「やっぱり張り替えたほうはいいですよねえ?」
「思う、思う」
3人しかいないリビング。
2対1で形勢逆転。
すると、らもさん、ガバッと立ち上がって飲んでいた日本酒の一升瓶をひっつかんで中味をミーさんの頭にいきなりぶっかけた。
「張り替えへんって言うてるやろッ!」

後にも先にも、あんなに激昂したらもさんを見たのは初めて。
「何をするのよ!」
日本酒でベチャベチャのミーさんが大声で泣き出した。
「わーん、わーん、わーん!」
草木も眠る丑三つ時にいきなりおっぱじまった夫婦ゲンカ。
「そんなことして気が済むんだったら、いくらでもやったらいいのよ!」
「なんやと!?」
2人でつかみ合いになった。
ヤバい!
「やめてください、夫婦ゲンカ、やめてください!」
あまりの出来事に泣きながら、慌てて止めに入った。

どうやってその場を収めたのか記憶が定かでない。しかし、この一件があって以来、らもさんとロック系の話をする際にはヘンな地雷を踏まないよう注意するようになった。


2002年9月14日。

トークイベント「らもはだ」第六回のゲストは、かまやつひろしさん。
この日、まさか10数年ぶりに中島らものロックに関する地雷を再び踏んでしまうとは思っていなかった。

いつもは遅れて入るのに珍しく楽屋に一番乗りだった、らもさん。
「今日は早いですね」
ダ・ヴィンチ誌のキシモト嬢に言われても
「ん」
と、仏頂面。
そこに今日のゲスト、ムッシュかまやつが楽屋入り。
「どうも」
ムッシュかまやつ、ザ・スパイダースのGS時代から現在まで第一線で活躍する日本ロック界の生き字引き。
もうすぐ70歳になろうかというムッシュが着てきたのは、ブルース・リーもどきなジャンプスーツ。

「はじめまして、かまやつひろしです」
全く大御所風なんて吹かせない、フランクな雰囲気。どんな人ともフレンドリーになれるムッシュ。いきなり楽屋にいた人みんなが、彼のファンになる癒しのオーラ。
みんながムッシュのオーラにやられていると、らもさんが意外なことを言い出した。
「会うの初めてやんね」
ホントですか!?
他でもう会っているものとばかり思い込んでいた。
そうか。尊敬するムッシュを迎えるため、今日はいつもより早めに楽屋入りしていたのか。
GS時代からムッシュの大ファンだったらもさんの質問にさらりと答えるムッシュ。  
初対面なのに会話が弾む、弾む。
本番前の楽屋トークで、日本のロック黎明期の国宝級のエピソードがどんどん飛び出す。

ヤバい、このままだと楽屋で全部喋ってしまう。慌てて、2人を止めるオレ。
「その話は本番までとっておいてください。
それよりかまやつさん、サインお願いします!」
もちろん、オレもザ・スパイダースは大好き。自宅から持参したファーストアルバムのレコードにサインをしてもらった。
「遊びに来ました」
ここで、近くの音楽スタジオでバンドのリハのために来ていた大槻ケンヂことオーケンが姿を見せる。
「ムッシュさんがゲストとお聞きして、近くにいたんで見に来ました。今日は楽しみにしています」
みんな、ムッシュが好きなんだなあ。

  1. 1
  2. 2