らもはだ日記

2003年2月5日。

その日は夕方から「HAMASHO」ってバラエティ番組の定例会議で麻布十番の制作会社にいた。ダウンタウンの浜田雅功さんと笑福亭笑瓶さんの2人がMCで、毎週毎週、アホな企画ばっかりやっていた番組だ。
「あの人はヒマ」
昔、一世を風靡したけど今は人気が無くなって超ヒマな人を訪ねて、記者会見形式でヒマヒマな現状をインタビューするって内容。

オレの出したその企画、面白いんだけどタイトルがあんまりにもあんまり過ぎて出演者にオファーしても皆、難色を示しているという。さて、どうする？
偉そうに定例会議と言ってもその程度のくだらない内容。
バラエティ番組の会議なんてそんなもん。
大の大人が集まって、そんなろくでもないことをワイワイと話す。ゲラゲラ笑いながらブレストするうちに番組の骨格が出来上がっていくのであった。

今後の対策を、あーでもないこーでもないと話し合っていた、その時。
携帯電話に着信。
トークイベント「らもはだ」プロデューサーのダ・ヴィンチ誌のキシモト嬢からだった。
電話に出るため、中座して会議室の外へ。
数日前、今度の「らもはだ」のゲストが、漫画家の江口寿史さんに決まったと連絡をもらったばかり。あの後、何か変更でもあったんだろうか？
「もしもし、なんでしょうか」
「逮捕されました」
「え？」
「らもさんが大麻所持で現行犯逮捕されたんです」
あ。
ついに。

この前の「らもはだ」の楽屋でスパスパやっていたらもさんの記憶がフラッシュバック。
ショックを受けているオレの耳にキシモト嬢の冷静沈着でクールな声が響く。
「昨日、自宅を警察にガサ入れされて、家の中にあった大麻を発見され、そのまま現行犯逮捕されたようです」
「今、どうしてるんですか？」
「拘置所にいます」
携帯を持つ自分の手が小刻みに震えている。
オレ、わっかりやすく動揺してる。

「それで今度の『らもはだ』はどうなるんですか？」
「とりあえず、こんなことになってしまって『らもはだ』の開催は白紙状態です」
そりゃ当たり前だろう。気が動転してマヌケなことを聞いてしまった。
「ホンマかいな」というまさかの気持ちと「やっぱりなあ」ってあきらめの気持ちが頭の中を高速回転。かといって何をどうすることも出来ない、苛立ち。
「とにかくご報告です。また何か動きがあったら電話します」
自分が一番大ショックだろうにあくまでも冷静なキシモト嬢。さすが仕事の出来る女。こんな非常事態でも変わらない。


でも、本当なのか？何かの間違いってことはないのか？
未だ半信半疑だったが、電話があってから数十分後、制作会社のフロアのテレビにドカンとらもさんの顔が映し出された。
「中島らも容疑者、大麻取締法違反で逮捕！」
チャンネルを回す。
全局、トップニュースで報じていた。
やっぱりホンマやったんや。
まるで鬼の首を取ったようかのようにテレビ画面に舞い踊る「中島らも容疑者逮捕」のテロップ。今、らもさんは容疑者なんだ。

やっとこさ事実を飲み込めたオレの横で一緒にニュースを見ていた関西出身のディレクターが素っ頓狂な声をあげる。
「なんやらもさん、まだいっぺんも捕まったことなかったんかいな！」
あれだけいろんな媒体でおクスリ関係の発言を繰り返していたんだから当然か。そのディレクターの言葉こそ、世間が持っていた中島らものパブリックイメージなのかもしれない。
それにしても。
自分のよく知っている人がテレビのトップニュースに取り上げられる時ってこんな感じなのか。
全く現実感皆無。
まるでドラマを見ているようだった。


ただただ呆然としていると、今度は松尾貴史から電話が。
「鮫肌、テレビ見たか？」
「見ました。」
「らもさん、逮捕されてしもた」
「そうみたいですね」
「今、大阪の友達と話してて、減刑するように嘆願書を出そうと思ってるんやけど」
驚きうろたえているだけのオレなんかと違って、動きが早い。
「関係者で署名を集めて、裁判所に提出したら初犯やし刑も軽くなるかもと思って。東京でも同じことが出来ないか、鮫肌からキシモトさんに相談してみてくれへん？」

早速、キシモト嬢に電話。
松尾さんの考えを伝えた。
「なんでそんなことをしなきゃならないんですか」
てっきり乗って来てくれるものとばかり思っていたオレが浅はかだった。
「法律を犯してしまったんだから、ちゃんと罪の償いをするのが当然でしょう。嘆願書を出すのには協力できません。やるなら、自分たちでやってください」
キシモト嬢に大人の意見をズバーーーツ！ と言われてぐうの音も出ないオレ。
そうなのだ、中島らもは今、世間的には大麻取締法を犯した犯罪者なのだ。
結局、松尾さんとも話して減刑の嘆願書の話はたち消えになった。

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