らもはだ日記

らもさんの躁転はまだ続いていた。
キシモト嬢に、らもさんのいないところでこっそり言われた。
「私は、『らもはだ』にロックの人ばかり呼ぶのには反対なんです」
らも逮捕後の「らもはだ」ゲストのテレビタレント中心のポップな人選は、プロデューサーであるキシモト嬢のアイデアであった。

「でも、らもさんは今、忌野清志郎さんをゲストに呼んでくれってオーダーしてきてます。これ、見て下さい」
彼女が取り出したのは、らもさんの手書きの原稿だった。
「放送禁止用語について書いて雑誌に掲載を拒否された回の生原稿みたいです。これを忌野清志郎さんにそのまま送ってくれって言うんです。渡してもらえば、わかるからって。清志郎はこれを読めば必ず来てくれるからって」
RCサクセションの初期の名曲に「言論の自由」って曲がある。

♪本当のことなんて言えない
 本当のことなんて言えない
 言えば殺される

躁転中のらもさんが、最近ステージでよく観客に向けてアジってる内容と言ってることは全く同じ。
だから今、デビュー時から終始一貫して権力による口封じをロックにのせて告発していたアーティスト、忌野清志郎にシンパシーを感じているのか。
「どう思います、鮫肌さん?」
「オレもロックばかりに偏るのは反対ですね。今、らもさんは躁転してるから。もう少し落ち着いてからでも良いと思います」
「やっぱりそうですよね」

もしこの生原稿を、言われた通り忌野清志郎に送っていたらどうなっていたんだろうか。
「OK、ベイベー。わかったぜ、中島らも!」とゲストに来てくれていたんだろうか。
そして、中島らもVSロックンローラー忌野清志郎は実現していたんだろうか。2人とも天に召された今となっては誰もわからない。


らもさんの躁転は、まだまだ続く。
「サメハダ~~~ッ!電話ちょうだ~い」
携帯の留守電を聞いて本当に驚いた。中島らもからメッセージが入っていたのだ。パソコンも一切やらず携帯も持っていないらもさん。オレ以上にアナログ人間な中島らもが携帯に留守電を入れてくるなんて長いつきあいの中でも初めてのことだ。

いったい何があったのか!? すぐにらもさんの自宅に電話した。
「あ!鮫肌。久しぶりぃ」
電話に出たのは、奥さんのミーさんだった。
「らもに代わるね」
「お~、サメハダァ~!」
声のトーンがいつもより明るくテンション高めで一オクターブ上。「躁状態だな」とすぐにわかった。

「今度、3月1日に新宿ロフトで、かまやつひろしさん呼んで『らも meets THE ROCKER』ってライブをやることになったのよ。でも前売りが全然売れてへんねん。キミは、テレビの世界で顔が広いやろ。
かまやつさんをゲストに迎えといて恥はかかせられへんので、知りあいに頼んで動員をかけてもらわれへんかな。頼むわ。今、東京の知りあい一人一人にこうやって電話してるんよ~!」
躁状態とはいえ、ことロック関係のことになるとらも御大の行動力はいつもの100万倍になる。

「わかりました!頑張って動員かけます」と約束して電話を切った。
「頼むで~ッ!」
こんなバカ陽気な口調のらもさんの声は聞いたことがなかった。
出所後、完全にロックモードの中、らもさんは「らも meets THE ROCKER」という知りあいのロックミュージシャンとの他流試合的シリーズライブをやっていた。もしかしたらこの時期、人生で一番好きなことをやって充実していた日々だったのかもしれない。


2004年3月1日。
新宿ロフトで、かまやつひろしさんを迎えてのライブの日。
楽屋に顔を出すと。
「鮫肌、来てくれたんだ!」
ミーさんの声が。
今日の日のためにミーさんも上京していた。今日のバンドは、娘のさなえちゃんがSAXを吹いているらしい。

らもさんが電話をかけまくったのか、大阪での舞台帰りの松尾貴史に、元「なげやり倶楽部」ディレクターで今は舞台演出家のG2ことツジさん、元リリパットアーミーで役者の山内圭哉も馳せ参じて、楽屋が最近ご無沙汰だった人たちとのプチ同窓会状態に。
オレは、事務所の後輩に声をかけて10人の客を連れてきていたのだが、ラモさんの大親友、仲畑貴志さんには負けた。
楽屋に入ってくるなり、「らも、宣伝会議のコピーライター講座の生徒たちを50人呼んどいたから」
50人!?やっぱり、大物はケタが違う。

前売り券が売れていなかったと言ってたが、当日フタを開けてみたらけっこうな数の当日券のお客さんが来ていた。しかも、パンクのメッカ新宿ロフトじゃ普段絶対に見ないような上品でアダルトな客層。年齢層も考えてオールスタンディングじゃ辛かろうと出したイス席がほぼ埋まり、なんとか形になって、ムッシュかまやつの顔を潰さずに済んだ。
本番のステージでは、ムッシュからのサプライズ。客席にお客として来ていた従姉で歌手の森山良子さんを途中で呼び込んで、最後はみんなで名曲「バン バン バン」を大合唱。

超大御所歌手、森山さんの飛び入りに「聞いてないよ!」と目を白黒させていた中島らもの顔が見ものであった。
この豪華競演を見ることが出来ただけでもお客さんはお代の元が取れたと思う。

(つづく)