らもはだ日記

「テレビに出ませんか?」

テレビ大阪の経済番組からテレビ出演のオファーがあったのは、ちょうどそんな時期であった。
「関西気鋭のパンク作家」ってな肩書きであっただろうか。番組内容は、若きクリエイターが、自ら考えた新商売のアイデアを有名企業のお偉方にプレゼン、「これは商売になるか?ならないか?」を判定してもらうという、ありがちな企画。
その番組に「いま若者に人気のコピーライター」の肩書きで同じく呼ばれていたのが、らもさんだったのである。

本番前の楽屋。
この人があの「どんぶり5656」を創っている人なのか。
ファンだった中島らもとの初対面に緊張しながら、挨拶。すると。

「君、ボクに本を送ってきてくれたやろう。詠んだで」
牛もイラつくくらいスローモーな口調。
世の中にこんなにゆっくり喋る人がいるんだ。
「アレ、面白かったで」
「はい、ありがとうございます!」
「ボク、コピーライターやんか。それでな、昨日、広告を出したいっていうカシワの機械の会社に行ってたのよ。そしたらな、そこの社長が新製品っていう鶏を一瞬でバラバラに捌けるっていう機械を見せてくれてな。ものすごい得意げな顔で自慢するの。『中島はん、これ見てみなはれ、カシワ、5秒でバンラバンラですわ~ッ!』って・・・クックックッ・・・」
らもさんの特徴的な「クックッ」笑い。それを聞いたのもこの時が初めてであった。てか、いきなり初対面でそんな話をされても。

そして迎えた本番。
パネラー席に座っていた企業のお偉方の皆さんは、若きクリエイター達のプレゼンするアイデアにことごとくキツいダメ出しをして、けちょんけちょん。
「君らはショーバイのことな~んも、わかっとらへん。そんな机の上で考えたしょーもないアイデアで銭が儲かるわけないがな!」
言いたい放題。「お前ら青二才は即刻帰れ!」とでも言わんばかり。
いい加減、こっちもイライラしてきた。

何か言い返そうと思っていたら、それまでひと言も発してなかったらもさんが、一方的にガンガンまくし立てて上気した顔のお偉いさんに向かって、ボソッと。
「気持ち良さそうに喋ってはりますなあ」
いきなりのカウンターパンチ!
お偉いさんも不意を突かれて鳩が豆鉄砲を食らったような顔に。
「いや、ん?ん?」
予想外のらもさんからのツッコミに何も言い返せない。
「若い人たちが考えたアイデアにそこまでケチをつけはるんやったら、さぞ凄いアイデアがおありなんでしょう。参考にしたいんで聞かせてください」
らもさんの思わぬ反撃に苦虫を噛み潰したような顔に。
パンクロックが好きだったオレはその瞬間こう思った。
「この中島らもってオッサン、パンクや!」
らもさんに話の腰をポキリと折られて明らかにうろたえるお偉いさんの顔のアップのまま本番は終了。痛快であった。

「鮫肌くん」
本番が終わった楽屋で今度は、らもさんの方から声をかけてきた。
「実は今度、読売テレビでボクが司会でバラエティー番組をやることになったんよ。でも地方局やから予算が全然無い。せめてブレーンだけでも豪華にしようと思ってな。君の本読んで思ったんやけど、番組のブレーンになってくれへんかな?」
いきなりのお誘い!
え、テレビ番組のブレーン!?
それってどんな仕事なの?
今考えると、それが「放送作家」という仕事を知るキッカケになったのだが。
とにかく、中島らもというさっき見たパンクなオッサンとお近づきになれるのなら。
「やります、やります!」
そう返事した瞬間から、自分の長い長い放送作家人生がスタートするなんて夢にも思っていなかった。

(つづく)

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