らもはだ日記

らもさんにブロンを教えてもらったのもこの頃だった。
いつもジャケットのポケットに1本、咳止めのブロン薬を忍ばせていて一気飲みする。
ブロン薬を飲んでラリる「ブロン遊び」が社会問題化してるって記事を新聞で読んだことはあったが、本当にそんなことをしている人を見たのは初めてだった。
「ブロンってエフェドリンっていう覚醒剤と同じ成分が少しだけ入っているんよ。だから一本、一気に飲むとラリる」
「ブロン遊び」の流行を受けて製薬会社が成分を変えたので今はそんなことはない。しかし当時は、らもさんの言うようにブロンを一気飲みすると確かにラリった。甘ったるい液体、180ミリリットル入りの瓶を飲み干すのはけっこう大変。飲んでみるとわかるが、絶対に途中で気持ち悪くなって「オエッ!」とえづく。

しかし、それでも頑張って飲み干せば、頭がとろ~んとしてきて視界がボンヤリ。間接照明系のバーにいて、いつの間にかえらく時間が経っていたっていうアノ感覚。しばらくするとじわじわ効いてきて同じ感じになる。やんわり時間感覚が麻痺してくるのだ。覚醒剤と同じ成分と言いながら、精神がとろんとろんに弛緩するダウナー系のおクスリ。
通は、瓶ごと冷蔵庫でキンキンに冷やしておく。すると喉越しがよくなってスルスルと飲めるのであった。

らもさんと同じように酒と一緒にブロンも飲むようになっていた。
ただし、気持ち良いからといって続けて2本飲むとダメ。
ブロンにハマっていた頃、パンクのライブを見に行ったことがあった。ライブ前に1本、ライブ中に1本。2本飲んだのはその時が、初。
「なんかしらんへろ、舌(シラ)がもつれてしゃべられへん」
典型的なラリりの症状。誰が見てもラリっている。まるで歌うように喋るラリパッパが数時間、なかなか抜けなくて困った。

「鮫肌、ちょっと頼みがあるんやけど」
雲雀丘花屋敷の駅前の薬局の前で、らもさんが千円札を2枚、手渡してくる。
「これで、ブロンを買うてきてくれへんか?キミの分も買ってええから」
「自分で行けばいいですやん」
「毎日毎日、ブロンばっかり買ってるやろ。
もうここのオヤジに顔覚えられてて、最近、何のかんの理由つけて売ってくれへんのや。キミやったらまだ顔バレしてない」
「もうええ年したオトナなんやから、ブロンやめなさいよ」

結局、買いにいくはめに。
らもさんに貰った千円札を握りしめて薬局の中へ。
「ゴホッゴホッ、咳が止まらないんで咳止めのブロンをください」
わざとらしすぎたか?
店主がブロンを1本、袋に入れようとする。
バレてないようだ。
「あ、すいません。もう1本もらえますか?」
一瞬、怪訝そうな顔をする店主。
オレ、ここぞとばかりに。
「ゴホッゴホッゴホッ」
なんとか2本買えた。
薬局の前で待っているらもさんの元へ。
「らもさん、ブロン買えました」
「ありがと」
2人で、すぐに箱から出して一気飲み。
迎え酒ならぬ迎えブロンで乾杯。
前夜の酒が残るまだ二日酔いの頭が、またもやとろんとろんになるのであった。

(つづく)

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