らもはだ日記

その日は、シーナ&ロケットの公開ライブも行われた。
♪レモンティー!
黒い革のミニスカート姿のシーナさんがシャウト。鮎川さんのギターが唸りを上げる。
トークでは寡黙でも愛機レスポールは饒舌そのもの。
ギャンギャンに鳴りまくる!
会場でスタッフの一人として見ていたオレの頭の中で何かが切れる音がした。
ブチッ!

気がついたら、番組アシスタントだった100キロを超える巨漢のマットーヤ茂平に肩車されて最前列で踊り狂っていた。
大ノリするオレにマイクを向けるシーナさん。しかし、興奮したオレは「レモンティー」の歌詞を歌わずにただただ「あぎゃー」と叫ぶばかり。
他のお客さんはどっちらけだった。

ライブが終わって、音楽担当スタッフのキタムラさんに呼び出され、きつく叱られた。
「ゲストのライブでスタッフが一番ノッて踊りまくってどうするねん!前へは行くな!って他の客には注意してるのに、スタッフが率先してルールを破ったんではしめしがつかへんやろ」
その通りでございます。
でも、昔からライブになると我を忘れてアホになってしまうのだった。

「鮫ちゃん、今から楽屋に行ってシーナさんと鮎川さんに謝りに行こ」
キタムラさんに促され楽屋を訪ねる。
ドキドキしながらお2人の前へ。
いきなりキレられたらどうしよう?
謝るって言ってもどう言えばいいのか。

ライブを終えた楽屋に、シーナ&ロケットのメンバーの皆さんが座って休んでいるのが見えた。
楽屋に入って思わず口をついて出たのは一番シンプルなこの言葉。
「すいませんでした!」
とにかく平謝り。
キタムラさんがとりなしてくれる。
「この男、パンクが好きでシナロケのライブがあまりにカッコ良かったから、禁止されてるのに思わずノリノリになってステージ前に行ってしまったようなんですわ。勘弁したってください」

黙って聞いていた鮎川さん。
急に立ち上がってオレに向かってくる。
「ヤバイ、怒られる!」
と思ったら、意外にも握手を求めてきた。
え、どういうこと?
「盛り上げてくれて、ありがとうっちゃ!」
全く予想外なリアクション。鮎川さんは最前列で踊り狂うオレを「ライブを盛り上げようとしてくれてる人」と好意的に解釈してくれたようなのだ。
へこんでいた心に、鮎川さんの福岡弁の優しいひと言が嬉しかったっちゃ!

しかーし。
その時、ジーーーッと超冷たい視線をオレに送っていたシーナさんの怒った目が忘れられない。
いつか再会した時にもう一回謝ろうと思っていたが、その機会もないまま2015年2月14日、シーナさんは天国へと旅立っていってしまった。
合掌。


収録が全て終わって、鮎川さん、シーナさんに謝りに行ったことをらもさんに報告した。
「盛り上げてくれて、ありがとう! って逆に感謝されました。鮎川さん、ホンマにええ人で感動しました」
「クックックックッ・・・・鮫肌はイージーライダーやな」
「へ?」
「すぐノッてしまう」
らもさんの軽口を聞きながら「さっきの本番でなんでそんな風に喋られへんねん!」と心のなかで突っ込んだオレ。
2回目の収録から、あまりに喋らない司会者・中島らもをアシスタントが紹介する台本上のコメントが「たまに喋る置物、中島らも」と書かれるようになったのであった。

(つづく)

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