らもはだ日記

冬、一人用のコンロに小鍋をのっけて、らもさんと湯豆腐をつつきながら日本酒を飲んでいたことがあった。
「いやあ、豆腐うまいですわ~!オレ、豆腐やったら10丁くらい食べられますよ」
酔ったオレが言ったそんな軽口。
湯どうふ、大好物だった。
バイク乗りのミーさん。ライダーなので行動範囲が広い。
ニコニコしながら。
「ホントだね、鮫肌。ホントに10丁食べられるね?」
「ホンマです。豆腐大好きなんですわ」
「そうなんだ!じゃ、買ってくるね」

そう言うが早いかヘルメットを被って、バイクに乗って家を出るミーさん。
ブロロロロロロロ。
まさか本当に買ってくるとは思わず、らもさんとそのまま飲み続ける。
小一時間ほど経っただろうか。
ブロロロロロロロ。
バイクが帰ってくる音。
80年代、まだコンビニや終夜営業のスーパーがこんなに発達していない時代。
ド深夜にどこで買ってきたのか、帰ってきたミーさんの両手にはでっかい買い物袋。

「鮫肌、買ってきたよ!大好きな豆腐、いっぱいあるからどんどん食べてね!」
買い物袋の中には、ちょうど10丁分の豆腐が入っていた。
「まだまだあるからね!」
ミーさんが凄いのは、オレの言った軽口に対して「ホントに言った通りに食えるんだろうな!」というイヤミで買ってきたんでは無くて、心からオレの豆腐好きをおもんばかっているところ。
嫌がらせじゃないのは、「どんどん食べてね!」って勧める、あくまでもピュアな口調でわかる。
こういう人のことを本当に「天然」と呼ぶのだと思う。

もちろん、せっかく買ってきてくれたんで死ぬ気で頑張って食べた。横で、狂ったように豆腐を次から次へと小鍋に放り込んでむさぼるオレを笑いながら見ている、らもさん。
「クックックックッ・・・・」
豆腐って5丁過ぎると味がしなくなるのを知ったのはこの時の経験からである。一生懸命食って食って、なんとか10丁全部食いきった。胃袋の中は豆腐でパンパン。
「ごちそうさまでした」

この時のことがトラウマになって未だに湯豆腐が苦手である。
そんな豆腐でいっぱいいっぱいのオレを、いつもの笑顔でニコニコしながら見ていたミーさん。
「あ、無くなったから、また買ってくるね」
ヘルメットを被って、追加の豆腐を買いに出ようとするミーさんを泣きながら止めたのは言うまでもない。

(つづく)

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