らもはだ日記

「ぶぶ漬け招待席」というコーナーもあった。当時、関西ローカルで、人間国宝・桂米朝師匠がやっていた「味の招待席」という人気グルメ番組のパロディ。
キッチュこと松尾貴史が、桂米朝さんの完コピなモノマネで、わけのわからないぶぶ漬け(京都弁でお茶漬けのこと)を紹介して、それをガンジー石原が試食する。
ご飯にアルコールをぶっかけて火をつける火炎茶漬け。
なんとか食べようとするガンジー石原。しかし、箸に炎が燃え移って「熱ッ!」
ただそれだけ。

こんなコントもあった。
北斗の拳のケンシロウ(竹中直人)。
敵の悪者(中村ゆうじ)と戦っている。

竹中「お前は、すでに死んでいる!」
中村「そういうお前のほうがすでに死んでいる」
竹中「いやいや、お前はすでに死んでいる」
中村「お前はすでに死んでいるって言ってるほうが死んでいる」
竹中「お前はすでに死んでいるって言ってるほうが死んでいるって言ってるほうがすでに死んでいる」
中村「お前はすでに死んでいるって言ってるほうが死んでいるって言ってるほうが死んでいるって言ってるほうがすでに死んでいる」
これを延々繰り返して。
そろそろオチが欲しいタイミングで。
竹中「あ、こんなところに、崖があああ!」
崖に落ちて死ぬケンシロウ。
ただ、それだけ。

実は、まだ知る人ぞ知る存在だった大阪時代のダウンタウンの2人も「電信棒郎」という連続コントで毎週出ていた。
松本人志さんが電信柱の被り物をして「でんしーん!」と叫びながら浜田雅功さん演じる悪者をやっつける、ゆるキャラヒーローもの。
現場で松本さん自身が「僕、こういうコントがやりたかったんですわ」と言っていた。
後年、「大日本人」という映画を見た時、
まるで電信棒郎まんまなストーリーに「この人、やりたいことが全くブレてないんだな」と思った記憶がある。

この番組が総合演出デビューだったディレクターのツジさんの演出もキレッキレ。
よく、らもさんが「ツジは天才やな」と言っていた。
らもさんが集めた、テレビ村の掟を知らない怖いもの知らずなブレーン集団の出す過激なアイデアを次々にカタチにしていくツジさん。
他のテレビじゃ絶対に見ることの出来ない、トンガッたコントと、トンガッた音楽と、トンガッたメンツによるトーク。
ゲストミュージシャンなんて、爆風スランプでしょ、米米クラブでしょ、レベッカでしょ、後に武道館を満杯にする80年代を代表する錚々たるバンドが全部出ていた。

現在の放送コードではありえないザッツ・サブカル・エンターテイメント。
なのに放送時間は、土曜の夕方5時半から1時間。テレビの一週間の時間帯の中で最も保守的な時間帯だ。
そんな時間、サブカル大好きなトンガッた若者は遊びに行っていて絶対に家にはいない
家にいるのは子供か老人。

未だに「あの番組は狂っていた」と言われる伝説のプログラムではあったが、その時間帯では厳しすぎた。
当たり前だが、視聴率は毎週、超低空飛行。
らもさんが後に「なげやり倶楽部」のことを語るときに「ワンクール持たずに打ち切り!そして、次の週から始まった「ドラえもん」の再放送の数字が15%でいきなり視聴率3倍になった」と自嘲気味に言っていたが、
あまりにもオンエア時間の環境が悪すぎたと、今、プロの放送作家の目から見て思う。

らもさんと出会い、テレビを知り、酒を知り、ブロンを知ったオレは、日々狂躁状態。
さらに毎回、学生の身分にしては分不相応なギャラももらっていた。
週に1万8千円。
自分が書いたものでもらえた初めてのお金。
好きなことだけやってお金までもらえるなんて、こんなに楽しくっていいのかしら。
食べた以上の量のゲロをクラインの壺と命名された胃袋から毎日毎日ゲロゲロと吐き出しながら、こんな超楽しい日々が永遠に続くと勘違いしていた。
「なげやり倶楽部が打ち切られることになりました」
会議にツジさんの上司にあたる局のエライ人がやってきて、頭を下げたのは番組がスタートしてわずか2ヶ月後のことであった。

(つづく)

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