11/02 更新
「キミの胃袋はクラインの壺やな」
らもさんがみんなを連れてきたのは、梅田の外れにある正宗屋。2級酒が1本180円で飲める庶民の味方。1000円でベロベロに酔っ払ってお釣りがくる大阪の「せんべろ」居酒屋の代表格である。
「今日はみんなお疲れ様でした。これからよろしく。乾杯!」
一杯目のビール。
らもさんの乾杯の音頭で、グラスに口をつけた瞬間。
ゲホッ!
思いっきりムセて吐き出してしまった。
全身がアルコールを拒絶しているのがわかる。
全員が爆笑。
「なんやキミ、飲まれへんのかいな」
らもさんが呆れ顔で言った。
「お酒にあんまり慣れてなくて」
恥ずかしくて、まだ酔ってもいないのに顔が真っ赤に。
とりあえず、飲むしかないか。
オレは、周りに勧められるまま慣れない酒を飲み始めた。
どんどん酔っ払ってくる。
「鮫肌くん、パンク好きなんやって?」
話しかけてきたのは、「なげやり倶楽部」総合演出のツジさん。
「僕、アース・ウィンド・アンド・ファイアーが好きなんよ。パンクは苦手やな」
「アース・ウィンド・アンド・ファイアーって、ファンク系やないですか。ベースをチョッパーで弾くやつですよね」
「そうそう。むっちゃカッコええやん」
「パンクとファンク、全く相容れない音楽ですよ!やっぱりパンクが最高」
酔っ払って、ツジさんに絡みだした。
「チョッパーベース、なんぼのもんじゃ!あんなもん、音楽ちゃうわ」
「ごめんごめん。鮫肌くんと音楽の話してたら、パンクVSファンクで喧嘩になりそうや。これで許してくれる?」
ツジさんがかけていたメガネを外して、シルベスター・スタローンの顔真似をする。言われればタレ目の部分がよく似ている。よっぽど自信があるのか、挨拶がわりにこの顔真似をよくやっていた。
「それが持ちネタか!しょーもないんじゃ」
「完全に目が座ってるやん。鮫肌くん、絡み酒やったんか」
ちゃんと飲むのは初めてだったんで知らなかった。オレって、絡み酒なの?
どんどんどんどん酔っ払って。
正宗屋での一次会がお開きに。
店を出るなりオレは、店の前の電柱に向かって激しくゲロを吐いた。
その量が凄かったんで、みんな、拍手。
「これは凄いな。食べた量の倍は吐いてるな」
らもさんが呆れて言う。
「さあ、鮫肌くん。二軒目、行くよ!」
ツジさんがゲロを吐いてヘロヘロのオレを肩に担いで歩き出した。
この男、大学時代、ラグビーかなんかやっていたらしくガタイが良い。体育会系の常で、こんな時、自分の力自慢をアピールしたがった。
「離せ~!こら、ツジ!」
肩に担がれたまま、両足をバタバタさせるオレ。
梅田の東通り商店街にその店はあった。
らもさんが行きつけの「DO」という名前の店。
「いや~ん、いらっしゃ~い」
正宗屋から民族大移動してきた中島らも一行を迎えたヒゲの店主はオカマ。みんなにヒコちゃんと呼ばれていた。
「ヒコちゃん、物凄い酔っぱらいを一人連れてきたよ」
ツジさんがオレを肩から下ろしてカウンター席に座らせる。
「ツジさん、オレ、マンガ描くのが得意なんですよ。中学の時に少年チャンピオンの漫画賞に応募して3次予選までいったことあるんです」
「へえ、そうなんや」
「今から描きます」
オレは、持っていたカバンから筆箱を出し、中の油性マジックを取り出した。
「こんな風に描くんです」
ツジさんの顔面にクキクキとマンガを描き出す。
「マンガの基本は4コママンガなんです。手塚治虫先生も言うてます」
1コマ目、2コマ目、3コマ目。
カウンターに座ってウイスキーを飲んでいるツジさんの顔面に4コママンガを描いていく。
らもさんをはじめ周りのみんなはそれを見ながらゲラゲラ笑っていた。
「僕、鮫肌くんの描いた4コママンガ、自分がキャンバスやから見られへん」
酔っぱらいに何を言ってもダメと諦めたのかされるがままのツジさんが呟く。
それを聞いてさらに爆笑する一同。
いい気になって、顔面だけでなく、ツジさんの着ていたシャツを脱がし上半身裸にして、さらに4コママンガを描きまくった。